【6】歪みを正す

 

蔵を覆っていた土壁がほぼすべて剥がされると、骨組みだけの姿になりました。敷地の向こう側に広がる田んぼが蔵越しによく見えます。この状態になったタイミングは、ちょうど田植えの季節でした。

土壁が剥がされてから「不陸調整」という作業を行って頂きました。具体的には、建物全体を持ち上げて、地面に対して建物を水平に置き直し、歪み部分をコンクリートで埋めるというものです。専用の機械(レーザーやジャッキ等)を使用していて、大工さんが使う道具には本当にいろいろなものがあるのだなと感心しました。

 

 

蔵を物置として使っていた時は全く気が付かなかったのですが、建物の歪みは十数センチもあったそうです。正面から見て後ろ側に沈んでいたようです。

大工さんによると「盛り土をして整地した場所に建物を建てると、こんなふうに沈むことがあるのよ~」だそう。専門家の言葉には重みがあります。十数センチの歪み部分にコンクリートが流し入れられて、数日間は乾かされていました。

そういえば昔、私の兄がアパート暮らしを始めたての頃、アパートの部屋にいると気持ちが悪くなると言っていました。大家さんに調べてもらったところ、後日その原因が「建物全体の歪み」であったことが判明しました。建物の歪みは少しでも人体に影響が出るものなのだなと、人間の平衡感覚の鋭さに驚いたことを思い出しました。

骨組みの状態はしばらく続きました。その間、大工さんが何をしてくれていたかというと、骨組みの木の表面を磨いてくれていたのです。木の表面をひたすら薄く削って綺麗にしてくれていました。敷地内にはキュイーン、キュイーン、という機械音が鳴り響きます。「木はね、こうやって磨けばいつまでも使えるものなのよ」そう言って、丁寧に磨いてくれる姿に心動かされました。

 

 

土壁がない蔵に見慣れてしまって、それがなかなかに良くて、リノベーション後はほとんどガラス張りでも良かったのでは?と盛り上がるくらいでした(実際はそうはなっていません)。

頭の中で想像したり、図面を見ているだけでは分からないことってやはりありますね。いつか湖がすぐ目の前にあるような場所で、全面ガラス張りの建物ができたらいいな、なんて淡い夢を抱くことになりました。

ですがいろいろ妄想した結果、やはり蔵は秘密基地みたいな閉じられた空間であることが一つの魅力であると思うに至ったのです。あーだこーだとたくさんの妄想を抱えながらも、工事は着々と進んでいきます。

 

 

建物全体の歪みを正された様子