【8】ステンドグラス

 

宿の1階と2階には、宿の目印とも言えるステンドグラスが入っています。蔵をリノベーションすることが決まったとき、和風、洋風どちらの雰囲気に近付けることも可能でした。なにせ内装はフルリフォームと言って良いくらいの大作業だったからです。

結果的に宿は「大正浪漫風」に落ち着きました。大正浪漫といえば和洋折衷のイメージが強いと思いますが、まさにそんな感じです。そしてこの雰囲気をひときわ醸し出しているのが、ステンドグラスの存在なのではないかと思っています。

まだ宿の雰囲気が定まらない時期に、夫と一緒にステンドグラス選びを始めました。もともとは大工さんが「そういうのがあってもいいかもしれませんね」と仰ってくれたことがきっかけでした。こうして私たちはネットを中心にステンドグラスを探し始めたのです。

 

 

ステンドグラスをいざ調べ始めると、たくさんの素敵な作品が出てきました。店舗を構えて作品を販売しているお店、一から注文を受け付けてくれるお店、等々いろいろありました。

最終的に私たちは「アンティーク品」にこだわることにしました。というのも、蔵は100年も建っていますし、そこに新品のものを入れても雰囲気がマッチしないと考えたからです。蔵同様、長い期間どこかで存在していたアンティーク品を見つけることにしました。

結局、2階には暖色系のステンドグラス窓が入りました。黄色と緑がベースで、赤と紫がワンポイントで入っているデザインです。これが自宅に到着したとき、とても感動したことを覚えています。日常生活でステンドグラスに触れる機会などほぼないので、その美しさに心動かされてしまいました。

あまりにも綺麗で、母屋の縁側でたくさんの写真を撮りました。太陽に照らされたステンドグラスはとても煌びやかで、華やかな気持ちをもたらしてくれます。これから宿に滞在して頂く方にも、ぜひ朝日を浴びたステンドグラスから元気をもらって欲しいなと思います。

 

 

以前、岩手県盛岡市を旅したとき、とても素敵なステンドグラスを見たことがあります。かの有名な宮沢賢治の生前唯一の童話集『注文の多い料理店』を発刊した出版社・光原社(こうげんしゃ)で、です。

現在、光原社は出版業からは退いていますが、敷地内に「可否館」と呼ばれるカフェがオープンしています。こちらのカフェ、席数はとても少ないのですが、趣が段違いでありました。

かつてはお勝手(台所)として使用されていたそうで、窓際には鮮やかな色味のステンドグラスが埋め込まれています。赤、緑、青、黄色……。原色というのでしょうか、濃い色で、本物の大正浪漫に出会うことができました。

タイムスリップしたような、懐かしい気持ちにさせてくれる物や作品はいろいろあると思います。宿でその代表を挙げるとするならば、蔵自体はもちろんのこと、ステンドグラスもそのうちの一つなのではないかと思います。

 

 

2階に埋め込まれたステンドグラス窓