引き続き外壁をどんどん剥がしていく作業が続きました。土壁が落ちていけばいくほど、細かな細工を施した骨組みが露出していきます。基礎となる太い木と木の間には、竹を器用に編んだものが一面に張り巡らされていたことが分かりました。
その間中、大工さんはずっと金槌でトントン叩いて壁を落としていきます。地面に漆喰の破片などが積もっていったのですが、これは後に玄関前の土が硬くなって歩きやすくなる、良い素材となりました。
あとから調べたことですが、漆喰の原料は消石灰で、石灰石を熱して繊維質の混ぜ物を加えてできるものだそうです。消石灰は何十年、何百年とじっくり時間をかけて徐々に固まり、最終的に石灰石に戻っていくそうです。だから地面に落とされた漆喰は、地面が硬くなる材料になったのだなと納得しました。
ちなみに世界最古の木造建築と言われる法隆寺にも、漆喰は至るところに使われています。長い歴史のなかで、漆喰がどれだけ重宝されてきた建築素材なのかが分かりますね。
ところで一気に壁を落としていくものだから、周辺の空気は煙たい感じになりました。そんな環境で大工さんたちは平気で作業を行っているので、少し体調が心配です。
実際、解体工事というのは身体的リスクが高いようです。例えば「じん肺」などの治療法が確立されていない病の原因にもなりかねません。もちろん大工さんたちはプロなので、その点のこともよく理解されていると思います。
ですが、もし私のような素人が一人でリノベーションを行うことになっていたら?と想像するととても恐ろしいです。その道の専門家の方々と一緒に作業を行うことは、安全面でも非常に大切であることを痛感しました。
こうしてあれよあれよと壁が無くなっていき、遂には太い木の基礎だけになりました。あまりにも潔い蔵の姿に、不本意にもうっとり。解体開始から約1週間後のことでした。
ちなみに今回のリノベーションでは、屋根だけはほぼ手を加えずそのままの状態で活用して頂きました。雨漏りなどは一切なく、瓦屋根が剥がれている部分もなかったので、宿の一番の見どころである梁も痛むことなく保存されていました。
逆に言うと、屋根以外についてはほとんどが丸裸状態な感じです。壁が剥がされた分、見通しがよくなって、その期間は我が家の土地が広くなったような錯覚に陥りました。