【10】重たい引き戸

 

工事前の蔵の入口には、二畳分くらいの大きな引き戸が設置されていました。素材は木で、横にスライドして開けるタイプの扉です。

それがこの引き戸、重たくて重たくて、開けるのが一苦労でした。体全身に力を込めて「ふんッ」と踏ん張り、勢いで開けるような感じです。

重たいうえに滑りが悪くて、とてもこのままでは宿には使えません。とはいえ、見た目は蔵にマッチしたクールな外観で珍しさもあります。当初この引き戸を使うか否かの議論がなされたのですが、結局は活用するという方向でまとまりました。

 

 

具体的には、引き戸の下にレールを敷く、という方法で対処して頂きました。大工さん的にはこの作業は簡単だったそうです。素人からすると、どうやってこの重たくて滑りにくい扉を使いやすくしていくのか想像も付きませんでした。

レールが取り付けられると、これまで重くてどうしようもなかった引き戸が、嘘のようにスイスイ動かせるようになりました。これを体験したときは「すごい!」と思わず叫んでしまいました。

さらに引き戸には蔵の内側から締められる、特製の「鍵」が取り付けられました。宿泊者の方が安心して利用できるために鍵は必須ですね。古いものを活用しようとする時、既存の製品が通用しないことが多いので、頭を柔軟に保つことが重要なのかもしれないなと改めて感じました。

住宅を購入する時、建売物件と注文住宅ではその大変さが比ではないだろうなと思います。私たちは注文住宅を建てたことはありませんが、今回体験している蔵のリノベーションはそれに近いものがあると考えています。

どこまでこだわるかにも左右されると思いますが、自由さと大変さは表裏一体。自由というのは道しるべや制限が少ない分、自分自身である程度答えを出していく必要があります。

一つの答えを出すのは簡単ですが、小さいことから大きなことまで数え切れないほどの決断を自分たちで行い、答えを出し続けていくのは非常に骨が折れます。それが自由の素晴らしさであり、怖さでもあります。リノベーションを通してそのことを痛いほどに理解させられました。

そのため必然的に「大工さんのおすすめで」が多くなってしまったことは否めません。ですが、そういうときに頼れる大工さんだと安心してモノヅクリを任せられます。ここでも依頼主と施工主の信頼関係が生きるのだなと感じました。

 

 

引き戸にレールが取り付けられた時期、ドクダミの花が満開でした。ドクダミは雑草の代表として捉えられているかもしれませんが、田舎暮らしを始めてその見方が少し変わりました。虫除けに役立つことがあるそうなのです。あまり好みではないようですが、ヤギたちの食事にもなります。

工事は一日二日で終わることはないので、四季折々の移ろいと工事の思い出が繋がっていきます。

 

 

たくさん咲いているドクダミの花