【16】ギャッベの色

 

「いつか自分の手元に置きたいな」と思うものって誰もが胸に秘めていると思うのです。雑貨、本、好きなアーティストの絵画、CD、など様々なものが考えられます。私もずっとその時が来るのを待っていたものがありました。

それが「ギャッベ」です。

ギャッベとは、手織りのペルシャ織物を指します。他にはない動物や植物のユニークな絵柄とカラフルな染織が特徴です。イランのザクロス山脈一帯で暮らす遊牧民が織る毛足の長い絨毯で、一枚たりとも同じ柄は存在しないそうです。

いつから自分はギャッベに憧れていたのだろう、と思い出そうとしてみましたが、忘れてしまいました。いつの間にか自分の世界にはギャッベが存在していました。故郷の商店街にギャッベのお店があったこと、外国の雑貨が好きだったこと、などが関係しているのかなと思います。

 

 

宿の玄関に敷かれている絨毯は「ギャッベ」です。

このギャッベを選んだ時のことは忘れないと思います。母と一緒に故郷の鎌倉で選んだのです。悩みに悩んで、ようやく決めた一枚です。このタイミングで母も実家の玄関用にギャッベを購入しました。母娘でおそろいですね。

鎌倉の鶴岡八幡宮の正面に位置する大通り・若宮大路には、たくさんのお店が立ち並びます。鎌倉駅東口から徒歩すぐの商店街・小町通りも同じです。そしてこの二本の大きな通りには、ギャッベのお店があるのです。

私は割と頻繁に実家に帰りますが、その都度鎌倉や江ノ島を堪能して帰ります。そこで生活していた時は深く考えていませんでしたが、離れてみて分かる良さがあるなあと感じます。ギャッベを買った時も、母と一緒に町を楽しみながら歩いていました。

お店に入ってからは「いざギャッベを買う」となっても、なかなか柄と色を決断することができず、苦労しました。

いや、苦労したのは私よりも店員さんだったかもしれません。ギャッベは他の絨毯に比べて厚みがある分、重たいのです。すべて手織りで一枚も同じ柄がないものだから、逐一おすすめのものを広げて見せてくれたのです。

赤、黄、青、緑、染織していないウールの優しいベージュ――。

たくさんの色に囲まれて、本当に幸せな空間でした。柄は自然モチーフの神秘的なものばかり。できることなら全部ください!と言いたいくらいでした。

最終的に残ったのはベージュと緑の二択でした。こればっかりはどっちが良かったんだろうと、今でも悩んでいる程です。結局は「緑は複雑な染織技術がいるから珍しい」とアドバイス頂いたのが決め手で、緑になりました。

 

 

この優柔不断な娘に付き合ってくれた母。

実はどれにしよう、と悩みすぎて一旦駅前のカフェに避難したことは大きな声では言えません。そんなことにまで一緒に時間を使ってくれた母の優しさに驚きます。

実家に帰ると、その時お揃いで買ったギャッベが玄関先で迎えてくれて、なんだかウルっときてしまいます。現地の方が一枚一枚手織りしたギャッベ、ぜひ宿の玄関で眺めてみて下さい。

 

 

鶴岡八幡宮の境内