【20】和紙の間接照明

 

トイレの真横には、和紙を使った手作りの間接照明があります。実はこの照明に使われている和紙の一部は、和菓子の包み紙なのです。どういうこと?という感じですよね。

リノベーションにあたり、蔵の照明全般をコンサルティングしてくれた方がいます。夫の昔からの知り合いで、かつ、同じ市内に住むご近所さんです。会社員時代に照明業界に関わっていらっしゃり、現在も定期的に関係団体の講演等に参加されているようです。

照明箇所によってはアドバイスに留まらず、実際に手を動かして作業をしてくれたところもあります。たとえば玄関スペースのスポットライト、2階のペンダントランプシェード、1階のシーリングライト、などをアレンジしてくれました。

そしてある日夫は、その方から「和紙と木枠で廊下に間接照明を作ってみては」というアドバイスを持ち帰ってくるのです。

 

 

「和紙と木枠で間接照明」と聞いた時、いまいちどんな役割があるのかピンときませんでした。

完成した今だからこそ分かるのですが、廊下の壁に埋め込まれた間接照明には、廊下をほどよく照らす役割があるのですね。夜間中ずっと付けていても気にならない、優しい明るさです。

さてこの間接照明ですが、夫の力作です。貰いものの木枠に、自宅にあった和紙を自分で糊付けしていました。そして実はこの和紙の中には、和菓子の包み紙もあったのです……!

きっかけは、その時たまたま自宅で伝統和菓子を食べる機会があり、その包み紙が綺麗な和紙でしっかりとした作りだったことです。和菓子の包み紙を見るなり「それ使えるんじゃない?」と嬉しそうに話す夫。まさか和菓子の包み紙を使うのか!?と当時は耳を疑いました。

その時はまだ、この包み紙が蔵の間接照明としてお洒落に働くとは想像もしていませんでした。私はしぶしぶ、それを使いたいなら使ってみればと軽い気持ちで「いいんじゃない」と返事をしました。

いざ出来上がったものを見てみても、いまいち気持ちが盛り上がらずにいました。しかし、それを使うと夫は張り切っています。どうなるのかなあ、と最後の最後まで疑問がぬぐえません。

しかし、いざその間接照明が廊下の壁に埋め込まれて、実際に明かりが灯されてみるとなんと美しいではないですか!これにはとても驚きました。この件については私はすっかり降参。白旗です。

 

 

この宿は、夫婦二人が上も下もなく全く同じ立場で意見をぶつけ合って生まれたものです。お互いがお互いのこだわりを持っています。夫婦とはいえ、よく考えれば赤の他人。違う意見を持つことだってたくさんありました。

小さな喧嘩も、大きな喧嘩もたくさん乗り越えました。注文住宅の設計やリノベーションは、一人で行わない限り、家族との話し合いが必要不可欠になります。その過程を楽しめるか、楽しめないか、その心構えが大切なのでしょう。

意見をぶつけ合うのは、怖いことではありません。我が家にはテレビがありませんが、二人で話すことが尽きないので、退屈したことがありません。共感できることも、意見が食い違うことも、ひたすらベラベラ喋っているからです。

そういう意味で、この宿は私たちの話合いの産物でもあります。二人の人間が一つのものを作り出すのは簡単ではありません。しかし、その難しい時間を重ねれば重ねるほど、信頼関係も徐々に増していっているように感じられるのです。

 

 

和紙と木枠の間接照明