【3】最後の写真

 

補助金も採択された、工事をお願いする大工さんも決まっている、あとは作業を始めるのみ、という状況になりました。大工さんから簡単に段取りは聞いていたものの、工事が始まってしまえば蔵に足場がかかり、近寄りづらくなります。

そこでかつての蔵を写真に収めておこうと、撮影をたくさんした日がありました。宿がグランドオープンする約1年前、2022年4月10日のことです。カラッと晴れた日の夕方のことでした。

もともと蔵は物置として活用していたため、まずは蔵に置いてある荷物を別の場所に移動させました。私たちはカヌーを趣味で行うので、艇やパドルをどかすところから始めます。

ちなみに以前の持ち主さんは蔵でお米を保存していたようで、扉には人名と米の注文数といった具合にチョークでメモが残されていました。余談ですがこの扉、実は非常に重たくて、開けるのに全身に力を込めて足を踏ん張るくらいでした。今はレールに載せられてスルスルと動くようになり、宿の扉として活躍しています。

 

 

私は一眼カメラを肩にかけて、めいっぱい蔵の写真を撮りました。と言っても蔵は物置だったので、1階はがらんとしています。床もなくただの硬い土が剥き出しです。窓もなく日光も入らないため、ひんやりした空気を感じます。どこから撮っても似たような絵になってしまうのですが、当時の蔵とお別れする気分だったので、全方向から撮影しました。

個人的にとても好きだったのは、蔵の扉にかけてあった錠前です。もう錆びているのですが、となりのトトロでサツキちゃんが同じような鍵を閉めるシーンがあって、それを思い出します。今も宿のオブジェとして飾っているので、ぜひ見つけてみて下さい。

また、2階は真っ暗でほとんど何も見えません。鉄格子の窓がありますが、光が入るところと言えばそれだけなので、光が少なくミステリアスな雰囲気です。人によっては神秘的、またある人にとっては怖い場所に思えたかもしれません。私は前者でした。

 

 

実は蔵をリノベすると決まった時、今の蔵を少なからず「壊す」ことになるので、それについてやや胸のつかえがありました。以前うちの蔵を見てくれた別の大工さんが、今じゃこんな土壁を作る技術はないですよ、と言っていたのを覚えていたからです。

土壁は恐らくほんの一部の話で、当時の技術がきっと蔵の随所に詰まっているだろうなと思うと、一部でも壊してしまうのはもったいない気がしたのです。もったいないというか、蔵自身が許してくれないのではないか、という申し訳なさの方が大きかったかもしれません。

そんな複雑な感情を抱えつつ、自分の気持ちを供養するようにたくさんの写真をフィルムに収めました。これから蔵に喜んでもらえるように、持ち主である自分たちにできることをやるまでだなと気持ちを新たにした日でもあります。この撮影を最後に、どんどんと工事が始まっていくことになるのでした。

 

 

もとの姿見納め