【17】裏なの表なのどっちなの

 

ある日のことです。主に1階の工事を担当してくれていたベテラン大工さんに呼ばれて、蔵へ行きました。何だろうと思って話を聞くと、ステンドグラスについてでした。1階客室の壁の一部には、ステンドグラスが埋め込まれる予定だったのです。

「今ね、ステンドグラスを壁に入れてみたんだけど、もしかして裏とか表とかあったのかなと思って念のため確認したかったの」

正直、ステンドグラスに裏と表があるとは思っていなかったので、大工さんに言われてハッとしました。確かにあるのだろうか……。見た目は裏も表もほとんど無かったので、全く気にせずにいました。

結局ネットで調べてもよく分からなかったので、大工さんと私のセンスに任せるしかない状況になりました。

 

 

大工さんとしては「一旦壁に埋め込んでみたけれど逆だったのではないか」というご意見でした。光の見え方で、確かにそのように見えなくもありません。

とはいえ、一度壁に埋めたステンドグラスを取り出す作業が必要になってしまいます。その手間をかけさせてしまうのは申し訳ないな、という思いがありました。

何度もどうしようかと悩んだ挙句、やり直して頂くことになりました。大工さん自身も逆なんじゃないか、という気持ちがぬぐえなかったようです。一度取り出して反転させて、再度壁に埋め込もうということになりました。

詳しいことは分かりませんが、大工さんは「まきこみ」という言葉を使っていました。壁にステンドグラスなどのパーツを入れる際の技術なのだろうと思います。一枚の小さなステンドグラスが壁の一部になるのだから、面倒な作業だったことでしょう。

さて、裏と表をひっくり返して頂いたステンドグラスですが、意外な結末が待っていました。

「……あんまりさっきと見た目が変わらないね」

大工さんが小さく笑って言います。そうなのです。先ほどとは逆にしたはずなのに、光の加減で見た目が変わらず、またこっちが裏なのかも?と思えてしまったのです。

結論、私たちが埋め込みをお願いしたアンティークのステンドグラスには、裏も表もなかったということでまとまりました。

 

 

どっちでもよかったことが分かってからは、皆でしばらく「そうだったかあ」と慰め合うように声をかけ合いました。

蔵に関わってくれた大工さんは本当に優しい方々でした。あくまでも依頼主の意向を丁寧に汲んでくださいました。きっと納期もあって大変だったと思います。そんななかでも今回の件のように、意思の疎通を図ってくれたことには感謝しかありません。

1階に埋め込まれたステンドグラスを見ると「あの時あんなやり取りしたなあ」と今でも鮮明に思い出します。夏の暑くカラッと晴れた日で、田んぼが初々しい黄緑色で満たされた季節のことでした。

 

 

裏か表か判断が難しかったステンドグラス